つくる、つなぐ #5

第5回目のゲストは、ライフスタイリスト大田由香梨さん。陽の光が穏やかに差し込む都内のご自宅にお招きいただきました。

自分が信じたものを決して押しつけることなく、ひとつひとつ魅力的なエレメントに変えて伝える、そんな姿勢が素敵だなと以前からお会いしたいと思っていた方でした。“ファッションスタイリスト”から“ライフスタイリスト”に変わったきっかけとは──?
– さっそくですが、どのようなきっかけから “ライフスタイリスト”として活動することになったんですか。
スタイリストとしてファッションの仕事をしていましたが、次第に衣食住というのは本当はすべてつながっているのではないかと感じるようになったんです。特に、農家さんと出会ったことが大きかったですね。食は生命をいただく行為ですが、洋服のコットンも畑で育てられたものですし、革張りのソファも動物の命をいただいて作られたもの。つい、それぞれを分けて考えてしまいがちですが、実はすべて自然の恵みをいただいているのだと気づいたんです。
そこから、「では、その生命の恵みを育むものは何か?」と考えはじめました。土壌の力や微生物の存在に興味を持ち、腸内環境を整える食事や、発酵食品を日常に取り入れるようになり、ヴィーガンや玄米食、発酵食を実践することで、肌や体調もよくなったんです。

– そこから、2011年にヴィーガン食のレストラン(現在はビルの解体により閉店)をオープンされましたが、当時はまだヴィーガンという言葉は一般的ではなかったですよね。
そうですね。当時は「ヴィーガンって何?」と聞かれることが多かったです。でも、私自身が食生活を変えることで体調が改善したことを実感していたので、より多くの方に知ってもらいたいと思いました。日本にはもともと発酵文化がありますし、玄米や味噌、甘酒など、昔からの知恵を活かしながら身体を健康に整えていくことができる。その素晴らしさを伝えたかったんです。

– このレストランはとても人気で、私も伺ったことがあります。ヴィーガンというちょっととっつきづらいコンセプトを柔らかく、そしておいしく伝えていて、まさにその“スタイリング”に魅了されました。残念ながら、このレストランはビルの解体により閉店しましたが、そのタイミングもあって千葉での暮らしを始めることにしたそうですね。
はい。今は東京のヴィンテージマンションと、千葉の築190年の日本家屋「シラコノイエ」を行き来する二拠点生活をしています。東京の自宅では、四季の変化を感じながらパートナーと愛犬クレームと過ごす時間を大切にしています。

– 「シラコノイエ」はどのような場所ですか?
もともとの出会いは、不動産情報に“古民家付き山林”として掲載されていたんです。初めて内見に行ったとき、長屋門もある立派な家で、最初は「手に負えないかも」と思いましたが、どうしても忘れられずに家を引き継ぐことにしました。約1年半かけて改修し、隈研吾建築都市設計事務所とともにリノベーションをしました。
職人さんと一緒に土壁や襖の和紙をしつらえたり。江戸時代の職人が作ったものに触れると、その熱意や気迫が伝わってきて、心が震える瞬間が何度もありました。190年前の人たちの声が聞こえてくるような感覚になりましたね。
– 古民家での暮らしにも発見がたくさんありそうですね。
そうですね。たとえば、庭に古い梅の木があり、毎年収穫して梅シロップを作っています。昔ながらの暮らしの知恵や、育てたものをいただくことの奥深さを感じています。

– 住まいの選び方や暮らし方でも、一貫して循環型の思想を大切にされているんですね。
バッグブランドのプロデュースもされていますが、どんなバックグラウンドがあるんですか。
7年ほど前に始めた自身のブランドでは、生産現場を訪ねて、革のなめし方や工法を学びました。樹皮やミモザを用いたフルベジタブルタンニンでなめした革でバッグを作っていますが、これは私が提案してきたライフスタイルとも共通する考え方です。無理のない生産数とミニマルな流通方法で、長く使えるものを届けたいと思っています。
「シラコノイエ」で江戸時代の職人が作ったものに心を動かされたように、200年後の人々にも感動を与えられるようなクリエイティブを目指したいですね。そうして、ひとつひとつの仕事に丁寧に向き合いながら、未来につなげていきたいと思っています。
